厚労省の成年後見制度利用促進専門家会議は、12月中旬に向けて、基本計画の取りまとめにはいった。10月25日の会議では、一度始めたら制度の利用をやめられないことや、家庭裁判所の裁判官が決めた後見人に不満があっても利用者からは簡単には変えることができないこと、後見人への報酬が支払えない人に対する対応など多くの課題が指摘されており、多くの委員から、中長期的な視点として法改正が必要であることを盛り込むべきと指摘があった。改善には、利用者の視点で検証する仕組みや、補助の拡充を検討するためにも、裁判官が決めている後見報酬について、全国的な実態を明らかにすることが必要、などの指摘もあった。
同会議は、成年後見制度利用促進法に基づく、今年度で終了する国の「成年後見制度利用促進計画」の見直しを行うために設置されている。同法では、司法と利用者の橋渡し役として市町村が設置する「中核機関」を位置付け、地域のさまざまな関係者のネットワークの中で制度を運用していくことを求めている。制度の根幹はいじらずに、運用の改善で利用しやすくすることを目指している。計画の改定に向け迅速に取り組むべき内容を優先して議論し、すでに8月に中間とりまとめを公表。第2ラウンドでは、最終とりまとめに記載する中長期的な課題について議論し、制度の課題が共通認識になっていった。
25日の会議には、14人もの委員が意見書を提出した。必要な時だけピンポイントで利用できるような制度への見直しなど抜本的に見直すべきという指摘もあるなど多くの課題が指摘されている。一方で、イメージカラーを決めて、キャンペーンを行い国民にもわか安く利用を勧めていくべき、とする意見も。制度の運用改善策の実効性が不透明なまま、必要以上に利用が勧められる懸念がある。課題について最終報告にどこまで盛り込むかが次の焦点だ。次回は12月中にはとりまとめ、1月にはパブリックコメントを行う予定だ。

そんな課題があるのに「利用促進」とは!?



委員の意見を抜粋ししてみたので、読んでみて下さい。
委員から提出された意見書の主な内容
■山野目章夫早稲田大学大学院教授 成年後見制度のかたちを見直す(一度始まった手続きも柔軟に終了を考える、等) ■新井誠中央大学教授 ・任意後見受任者が、本人や家族に対し、利用を適切な時期に促す仕組みの検討 ・報酬支払い能力のな利用者本人には適切な公的報酬助成が必要。ファンンドレジングの活用も ■西川浩之 司法書士 ・ 中核機関の受任者調整の本質は事案の課題の整理と支援内容・方針の明確化 ・ 新たな金融サービスへ期待 ・任意後見制度の運用の改善に議論を深める ・行政手続きのデジタル化への対応 ・家庭裁所の役割の明確化、人員の増強 ■上山泰 新潟大学法学部教授 ・法定後見制度の基本的な枠組みの改正(必要性の原則の明文化)が必要 ・定期的な再審査制の導入 ・成年後見人等に対する強制的な交代権限を家裁の監督権限として法律に位置付ける ・困難事案に対する最後の砦として公後見人制度の導入 ・任意後見制度と法定後見制度の併存の容認 ■櫻田なつみ日本メンタルヘルスピアサポート専門員研修機構理事 ・当事者が後見人等に相応な報酬が支払える環境をつくってほしい ・制度の周知広報を ■星野美子 日本社会福祉士会理事 ・中核機関に社会福祉士の配置を ・後見人等を交代させる仕組みの法制化 ・国レベルで後見報酬に関する議論を ■住田敦子尾張東部権利擁護支援センター長 ・小規模市町村での中核機関の設置に向けた都道府県の支援 ・苦情対応 ・申立費用の償還払の見直しなど利用支援事業の改善 ■中村健治 北海道社会協議会事務局長 日常生活支援事業と成年後見制度の切れ目ない運用 ・虐待対応として緊急時い「みなし適応」ができるように ・法定後見実施機関の運営基盤安定化のための公的な支援 ■全国手をつなぐ育成連合会 ・運用の改善だけでなく法改正が必要 ・後見人の選任、交代は柔軟に。最終的には専門職後見は必要な時だけ利用できるような運用が望ましい ・利用の是非も含めた相談窓口の設置 ・後見人等への報酬は、低所得者でも負担できるよう助成制度が不可欠 ■手嶋あさみ最高裁判所事務総局家庭局長 ・裁判所の行う監督と、中核機関の支援は異なるという共通認識で連携部分の見極めが必要 ・成年後見制度支援信託・預貯金等の積極的な活用 ・報酬助成等の環境整備は解決が不可欠な課題 ■倉敷市 ・後見人の選任や対する苦情の受け止めができるよう家庭裁判所の相談機能の充実 ・個別事案について、家庭裁判所がもつ資産状況の情報や解決すべき課題に対する考え方、判断基準等を中核機関と共有 ・家庭裁判所のもっている後見等を行う法人や個人についての中核機関との情報の共有 ・虐待事案について、首長申立を行う場合の事務簡略化 ・専門的な支援を要する課題が解決した時に市民後見人等に交代できるような運用の仕組みが必要 ・家庭裁判所が後見人等の報酬算定を行う際に考慮している事項の標準的な判断の目安を示すことが必要 ■青木佳史 弁護士 ・市町村長申立の運用改善(標準処理期間を定めるなど迅速な申立の体制整備、親族調査の範囲の柔軟化、申し立てすべき市町村間の調整のルールづくり等) ・親族後見人等の支援は、第一義的には裁判所の後見監督の一環。中核機関の役割は、身上保護や意思決定支援 ■永田祐同志社大学教授 ・代理権を付与せずに日常生活上の支援を行う権利擁護の手段の充実 ・後見制度への市民参加の促進 ・市町村単位で解決の難しい問題に都道府県が関与できる体制整備 ■花俣ふみ 認知症の人と家族の会副代表 ・地域共生社会の実現に向け計画的に改善の推進を